考え方
厭勝・魘鎮(工匠が建物に仕込むまじない)
- 魘鎮
- 厭勝
- 厭鎮
呪いや術で人に害を与える、または災いを抑え込むこと。研究所が参照した資料では、大工・瓦工などが建物に木人や物を仕込む魘鎮と、その解き方が記される。
資料の記述
厭勝・魘鎮(工匠が建物に仕込むまじない)は遵生八牋に現れる。『遵生八牋』卷七の「起造工匠魘鎮解法」は、《臞仙》の言として、家を建てる大工・瓦葺き・石積み・彩色の職人はみな魘鎮や呪詛を行うと述べ、着工の初めに土木の神を祭って、それが作った者自身に返るよう祈る祭文を載せる。
この記述の範囲: 『遵生八牋』卷七「起造工匠魘鎮解法」
- 遵生八牋/卷07(起居安樂箋 上卷) 遵生八牋 卷七(起居安樂箋 上卷)「起造工匠魘鎮解法」の第1段
同節は、大工の魘鎮として、材木を根と梢を逆さに使うと家が伸びず事がさかさまになると言い、その解き方として斧で木を打ちながら「倒好倒好」で始まるめでたい言葉を唱えると記す。
この記述の範囲: 『遵生八牋』卷七「起造工匠魘鎮解法」
- 遵生八牋/卷07(起居安樂箋 上卷) 遵生八牋 卷七(起居安樂箋 上卷)「起造工匠魘鎮解法」の第1段の後半
同節は、大工が人の像を刻んで身に呪文を書き、目・耳・口・心・門に当たる所へ釘を打って屋根に据えると、住む人が盲・聾・唖・心の病・家に居つけないなどになるとし、これを梓人の魘鎮の大略とする。
この記述の範囲: 『遵生八牋』卷七「起造工匠魘鎮解法」第2段
- 遵生八牋/卷07(起居安樂箋 上卷) 遵生八牋 卷七(起居安樂箋 上卷)「起造工匠魘鎮解法」の第2段
同節は、家ができあがったら水を盆に入れ、家の者がそれぞれ柳の枝で水を家の周りに撒きながら「木郎木郎」で始まる呪を唱えれば、魘鎮の害は無くなると記す。
この記述の範囲: 『遵生八牋』卷七「起造工匠魘鎮解法」第2段の結び
- 遵生八牋/卷07(起居安樂箋 上卷) 遵生八牋 卷七(起居安樂箋 上卷)「起造工匠魘鎮解法」の第2段の結び
同節は、瓦匠の魘として棟の中に土の人形や船・傘を置く・壁に匙と箸を一本ずつ入れる、石積みの敷居の下に荷葉で包んだ飯と十字の箸を置く、竈に木の人形を刃を寝所へ向けて置くなどを挙げ、石匠・画匠にも魘鎮の呪があるが、言い当てれば害は無いとする。
この記述の範囲: 『遵生八牋』卷七「起造工匠魘鎮解法」第3段
- 遵生八牋/卷07(起居安樂箋 上卷) 遵生八牋 卷七(起居安樂箋 上卷)「起造工匠魘鎮解法」の第3段
明の白話小説『西湖二集』卷三十では、登場人物の馬自然が伝えた法の一つとして、大工の造房の魘鎮を破るには家の完成の日に柳の枝で家の四周に水を撒き、「木郎」で始まる呪を唱えて家を巡ると書く。
この記述の範囲: 『西湖二集』卷三十「馬神仙騎龍昇天」(小説の中で作中人物が伝える法)
- 西湖二集/卷30(第三十卷 馬神仙騎龍昇天) 西湖二集 卷三十「馬神仙騎龍昇天」、「又傳破木匠造房魘鎮之法」の段
『古今圖書集成』考工典が引く《西墅雜記》は、大工の魘鎮は巫蠱・呪詛と同じところから出たもので、ひどいものは人の家を乱すと述べ、同じ里の莫氏の家で夜ごと部屋に取っ組み合いの音がし、家を売って壊すと梁の間から裸で髪を振り乱して組み合う木彫りの二人が出たという例を挙げる。
この記述の範囲: 『古今圖書集成』考工典 第七卷「木工部雜錄」所引《西墅雜記》
- 欽定古今圖書集成/經濟彙編/考工典/第007卷(木工部) 欽定古今圖書集成 經濟彙編 考工典 第七卷「木工部雜錄」(djvu 72 頁)、《西墅雜記》の条の前半
同じく《西墅雜記》は、皋橋の韓氏が家を建ててから四十余年喪が絶えず、壁が崩れると中に孝巾(喪の頭巾)が煉瓦にかぶせて隠してあった例、常熟の某氏の新しい家の椽の間から、一人の女と三四人の男が絡む木の人形が見つかった例を挙げる。
この記述の範囲: 『古今圖書集成』考工典 第七卷「木工部雜錄」所引《西墅雜記》
- 欽定古今圖書集成/經濟彙編/考工典/第007卷(木工部) 欽定古今圖書集成 經濟彙編 考工典 第七卷「木工部雜錄」(djvu 72 頁)、《西墅雜記》の条の中ほど
《西墅雜記》は、聞くところでは大工の家伝の書に魘鎮を作らないものは無く、人に施さなければ自分に返ってくるので、少しでも意に沿わないと平気で仕掛ける、だから家を造る者は知っておくべきだと記す(伝聞)。
この記述の範囲: 『古今圖書集成』考工典 第七卷「木工部雜錄」所引《西墅雜記》
- 欽定古今圖書集成/經濟彙編/考工典/第007卷(木工部) 欽定古今圖書集成 經濟彙編 考工典 第七卷「木工部雜錄」(djvu 72 頁)、《西墅雜記》の条の後半(「聞凡《梓人家傳》」以下)
『古今圖書集成』考工典が引く《農田餘話》は、ある富家が家を建てたとき、巫が大工に木の人形を作らせて柱栱に入れさせ、数年後に家人が病むと巫は柱栱に厭勝があると言い、掘り出して大工を問いただすと巫に教えられたと答えたので、巫が罪に服したと記す。
この記述の範囲: 『古今圖書集成』考工典 第七卷「木工部雜錄」所引《農田餘話》
- 欽定古今圖書集成/經濟彙編/考工典/第007卷(木工部) 欽定古今圖書集成 經濟彙編 考工典 第七卷「木工部雜錄」(djvu 72 頁)、《農田餘話》の条
張劍葳(2007)は、厭勝を、他人に災いを移す「嫁禍致災型」と、災いを抑えて吉を求める「壓制求吉型」の二つに大きく分ける。
この記述の範囲: 張劍葳「中國傳統建築中的厭勝文化」(2007)の分類
- 中國傳統建築中的厭勝文化 紙面 89 頁(PDF 1 頁)「一 厭勝的含義」
張劍葳(2007)は、《魯班經》《千鎮壓法經》《新鐫工師雕斫正式魯班木經匠家鏡》などの民間の建築文献に禁忌・厭勝の詳しい記載が多いと述べ、台湾の伝統建築の匠師に今も「學工夫先學術」という言い方があると書く。
この記述の範囲: 張劍葳「中國傳統建築中的厭勝文化」(2007)
- 中國傳統建築中的厭勝文化 紙面 90 頁(PDF 2 頁)第 1 段の続き、注 8(紙面 95 頁)
張劍葳(2007)は、《西墅雜紀》の莫氏の木人を「木匠が東家への不満から密かに置いたもの」、韓氏の孝巾を「瓦工が家主の死喪を呪った仕業」と説明し、こうした話は工匠と東家の対立から生じたもので、昔の施主が工匠を厚くもてなした理由もここにあると述べる。
この記述の範囲: 張劍葳「中國傳統建築中的厭勝文化」(2007)の解釈
- 中國傳統建築中的厭勝文化 紙面 92〜93 頁(PDF 4〜5 頁)「(三)建築附加物中的厭勝法」第一
- 欽定古今圖書集成/經濟彙編/考工典/第007卷(木工部) 欽定古今圖書集成 經濟彙編 考工典 第七卷「木工部雜錄」(djvu 72 頁)、《西墅雜記》の条
張劍葳(2007)は、明初に朱元璋が鳳陽の中都の造営を途中でやめた原因は、工匠が宮殿に「厭鎮法」を用いたことにある可能性があると推測し、注で《明史》薛祥傳の、李善長が工匠の厭鎮法を奏上した記事を引く。
この記述の範囲: 張劍葳「中國傳統建築中的厭勝文化」(2007)の推測
- 中國傳統建築中的厭勝文化 紙面 93 頁(PDF 5 頁)第 1 段、注 cl(紙面 96 頁)