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キョンシーの等級を読む — 紫僵・飛僵・旱魃・殭屍王

下書き 公開 ・更新

月夜の山の洞穴で、辮髪の老人が両手に一つずつ鈴を持って振る。洞穴の外では僵屍が立ち止まり、離れた岩陰で棒を持つ村人たちが待っている。
記事の記述をもとにした想像図。空を飛ぶ僵屍の話(『子不語』巻十二「飛僵」)から。(絵: PurpleHeron)

この記事の問いと、今の答え

問い: キョンシーには強さの「等級」があり、紫僵や白僵から始まって、飛ぶ僵屍や「不化骨」へと上がっていく。さらにその上に「殭屍王」や「殭屍真祖」がいる。ネットでは、こうした話が古い本に基づくかのように語られることがあります。では、古い話の中で、屍(しかばね)はどんな名で呼び分けられ、どんな順に並べられているのでしょうか。そして、一列に並んだ「等級」は、どこから来たのでしょうか。

今の答え:

  • 色で呼ぶ名は並んで出てくるが、強さの順は書かれていない。紫僵・白僵・綠僵・毛僵の四つの名は、清の袁枚の『子不語』巻九に、ある人物の話の中で並んで出てきます。けれども、どれが先か、色が何を意味するかは書かれていません1。
  • 屍が年月を経て別のものに変わる道筋は、清の本に少なくとも四つある。飛ぶようになった僵屍が、さらに年を経て飛天夜叉になる2。地に伏して朽ちない屍(伏屍)が、場所を移る屍(游屍)を経て「飛行夜叉」になる3。屍が旱魃(かんばつ。日照りを起こす化け物)を経て、犼(こう)という獣になる(「ある人の説」として)4。僵屍が金毛吼を経て旱魃になる(「また一説」として)5。ただし、この四つは一本の等級表にはつながらず、最後の二つは順が逆です。
  • 旱魃を僵屍とする話は、清の本に何度も出てきます。けれども、清の学者の紀昀は、この説に疑いを示しています67。
  • 「殭屍王」「殭屍真祖」は、今回調べた範囲では、香港のテレビドラマの言葉です。1998 年と 2000 年に保存された、このドラマの公式サイトのあらすじが、一人の登場人物をこう呼んでいます。頁には、白僵・黑僵のような等級の語はありません89。
  • 「銅甲屍」は、今回確かめた範囲では 2007 年に出た小説の題が最も早い例です10。それより前に無い、とまでは言えません。
  • 古い語から新しい語までを一列に並べた「等級の体系」を、最初に示した資料は、今回は見つかりませんでした。

古い話の呼び分け: 色と毛

紫僵・白僵・綠僵・毛僵

『子不語』巻九の「掘塚奇報」は、墓を暴いて家を興した朱某という男の話です。話の終わりに、朱某は、自分が見てきたこととして、棺の中の僵屍は一様ではなく、紫僵・白僵・綠僵・毛僵などの類があった、と語ります1。

この一文が、色で呼び分ける名の、今回見つかった出どころです。ただし、読むときに気をつけたい点が三つあります。

  • これは朱某という作中の人物の言葉で、書き手自身の説明ではありません1。
  • 四つの名は並んでいるだけで、どれが弱くどれが強いか、どれからどれへ変わるかは、本文にありません。
  • 色が何を意味するかも、本文には説明がありません。

『子不語』とその続編『續子不語』の僵屍の話を調べた馮藝超の論文(2007 年)も、紫・白・綠・黑はおそらく僵屍の毛の色を言うのだろう、と推量しています。毛の長さは、死んでからどれほど時がたったかに関わるらしい、とも推量しています。そのうえで、毛の色が違う理由は話の中に書かれていない、と述べます11。

白凶・黒凶

同じ『子不語』の巻二「秦中墓道」には、白凶・黒凶という名が出てきます。血と肉がまだ尽きないうちに葬られた屍が、地中の気(「地気」)を受けると、三か月で全身に毛が生える、といいます。気は、当時の考え方で、ものを形づくり変化させる目に見えない力のことで、この話では屍が変わる理由として持ち出されています。白い毛のものを白凶、黒い毛のものを黒凶と呼び、人の家に入り込んで災いをなす、というのです12。ただし、この話には「僵屍」「殭屍」の語は一度も出てきません13。

毛の色の出てくる話

名として呼び分けなくても、屍に毛が生えている話は、清の本にたくさんあります。

毛 資料 どんな場面か
白 『子不語』巻十八「旱魃」 乾隆二十六年の都の大日照りの話。棺を開くと、生きているような顔の女の僵屍で、全身に白い毛が生えていた14
白 『子不語』巻二十二「僵屍抱韋馱」 寺に仮に置かれた棺から出た屍は、全身が白い毛で、顔も毛に覆われ、目が緑に光っていた15
白 『續子不語』巻二「僵屍食人血」 荒れた塚の棺の屍は、顔が生きているようで全身が白い毛に覆われていた16
緑 『子不語』巻十「綠毛怪」 廟の神座の下から跳び出た「一物」の正体は、緑の毛に覆われた棺の中の屍だった17。棺を焼くと怪異は絶えた18
緑 『淞隱漫錄』「劍仙聶碧雲」 日照りのとき、朽ちた棺に全身緑の毛の僵屍がいた19
緑 『醉茶誌怪』巻二「旱魃」 墓を開くと、全身に一寸ほどの緑の毛が生え、目が火のように赤い人のような物が横たわっていた20
五色 『續子不語』巻五「屍奔」が引く陳聶恒の書 深山で見つかった遺骸に五色の毛が生えていた21
長い毛 『續子不語』巻五「飛僵」 年を経て飛べるようになった僵屍は、全身の毛が一尺あまりに伸びる22

白い毛の屍も緑の毛の屍も出てきますが、どの話も、色によって強さや段階が違うとは言っていません。先に紹介した馮藝超の論文の見方とも合います11。

「まだ成り切っていない」屍

段階の考えに近い言い方が、二つの話にあります。

  • 『子不語』巻八「批僵屍頰」では、跳ねながら近づいてきた者について、後で土地の人に尋ねると、僵屍になったばかりで、まだ僵屍として出来上がっていない者だ、という答えが返ってきます(原文は「未成材料」)23。
  • 『續子不語』巻五「屍奔」が引く陳聶恒の書では、新しく葬られた屍が五色のまだらになっていたのを、店の主人が「まだ精になっていない」と言います(原文は「猶未成精」。「成精」は、ものが年を経て化けることを言う語です)21。

どちらも、屍には「成り切る」前と後がある、という考えを示します。けれども、成り切った後に何になるのかは、この二つの話には書かれていません。

古い話の「変わっていく道筋」

飛ぶ僵屍から飛天夜叉へ

「飛僵」という題の話が、『子不語』と『續子不語』に一つずつあります。題は同じでも、中身は違います。

  • 『子不語』巻十二「飛僵」。ある老人の語りとして、村の山に空を飛んで子どもを攫って食う僵屍が出た、という話です24。道士は、僵屍は鈴の音を何より恐れると教えます。老人が屍の住む穴の中で二つの鈴を休まず振ると、戻った屍は穴に入れません。屍は村人と格闘した末に夜明けに倒れ、焼かれました25。題は「飛僵」ですが、本文は「飛僵」の語を使わず、「僵屍」と書いています24。
  • 『續子不語』巻五「飛僵」。こちらは話というより説明です。僵屍は久しくすると飛べるようになって棺に隠れなくなり、全身の毛が一尺あまりに伸びる22。さらに久しくすると飛天夜叉になります。本文は、飛天夜叉は雷に撃たれなければ死なない、と書いたすぐ後に、鳥槍(火器の一種)だけはこれを倒せる、とも書きます。二つの言い方がどうつながるのかは、本文に説明がありません2。閩中(今の福建のあたり)の山に住む人々は、これに出会うと猟師を集めて撃つ、とも書きます26。

徐珂の『清稗類鈔』にも、袁枚(袁子才)の言葉として、同じ筋の説明が載っています27。

ここには、はっきりした順があります。僵屍 → 飛ぶ僵屍 → 飛天夜叉。変わる理由は「久しくすると」、つまり年月です222。

地の中の屍: 伏屍から游屍、そして飛行夜叉へ

『續子不語』巻五の「骷髏三種」は、地の中に長く残る屍を三つに分けます。月の気(月から受ける気)に乗って時節ごとに場所を移る「游屍」、千年朽ちずに地に伏している「伏屍」、生きていたときに力を込めた所の骨だけが朽ちずに祟る「不化骨」です。ここでの呼び名は「屍」で、「僵屍」ではありません28。

不化骨の例として、米を背負う者は肩の骨が、輿(こし)を担ぐ者は脚の骨が、死んだ後まで朽ちずに残る、と書かれています。力を使った所に精気(気のうち、ものを朽ちさせずに保つ力として書かれるもの)が集まるからだ、という説明です29。骨の色は、ウィキソース(維基文庫)の翻刻(原本の文字を写し取って起こした本文)では「黒い玉のよう」ですが29、馮論文が引く文では「黒い石のよう」で、字が違います30。

そして同じ条(項目)に、移り変わりの一文があります。伏屍は久しくすると精気を受けて游屍になり、さらに久しくすると「飛行夜叉」になる3。

  • ここでも順ははっきりしています。伏屍 → 游屍 → 飛行夜叉。
  • ただし、不化骨がこの道筋に入るかどうかは書かれていません3。
  • 「飛行夜叉」と、前の「飛僵」の条の「飛天夜叉」が同じものかどうかも、本文には書かれていません3。

馮藝超の論文は、この「飛行夜叉」を飛天夜叉(飛僵)と言い換え、二つの条を結びつけます。そのうえで、伏屍から游屍、飛天夜叉へと「遞進式」(一段ずつ進む)の変化がはっきり見える、と読みます31。これは論文の読みで、原書が二つを同じものと言っているわけではありません。

屍から旱魃へ、旱魃から犼へ(ある人の説)

『續子不語』巻三の「犼」は、棺を出入りする屍の話です。

  • 話の初めに、常州の蔣明府という人の言として、仏が乗る獅子や象はよく知られているが、仏が乗る犼は知られていない、犼は僵屍が変わったものだ、と書きます32。
  • 話の中では、川を渡れずにいた屍が、行きつ戻りつして怪しい声で泣き叫んだ末に三度跳ね、獣の姿に変わって去ります33。
  • そして話の終わりに、「或曰」(ある人は言う)として、屍はまず旱魃に変わり、次に犼に変わる、犼は口から煙と火を吐いて龍と戦えるので、仏がこれに乗って鎮める、と書きます4。

つまり 屍 → 旱魃 → 犼 の順は、書き手が言い切ったものではなく、「ある人の説」として置かれています4。

馮藝超の論文は、この順を「或曰」を付けずに、書き手自身の説明として述べています34。研究の紹介を通すと、伝聞の形が落ちて、確かな説のように見えてしまうことがあります。

僵屍から金毛吼へ、吼から旱魃へ(また一説)

ウィキソースに清の本として収められた『仕隱齋涉筆』の旱魃の条は、旱魃についての説をいくつも並べます。

  • ある小説に載る話として、魃は僵屍が変わったもので、またの名を飛天夜叉といい、行く所は千里が赤土になる、と紹介します35。
  • 「又一說」(また一説)として、僵屍が金毛吼に変わり、吼が旱魃に変わって、気を吹いて龍を食うので龍が逃げて雨が降らない、と書きます5。
  • そのうえで書き手自身は、魃を焼いたり水に沈めたりするのは日照りを救う方法ではない、日照りは悪い気から生まれ、人が善い心を起こせば雨になる、と論じます36。

僵屍 → 金毛吼 → 旱魃。これは「犼」の或曰の順(屍 → 旱魃 → 犼)と逆で、字も「犼」ではなく「吼」です5。さらにこの条では、飛天夜叉は旱魃の別名です35。『續子不語』の「飛僵」では、飛天夜叉は飛ぶ僵屍がさらに年を経た先の姿なので、位置づけが違います2。

なお、今の台湾の教育部の辞典のデータ(萌典)は、犼を犬に似て人を食う伝説の猛獣、旱魃を日照りの神・鬼神と説明し、どちらにも僵屍との関わりを書いていません3738。

旱魃は僵屍なのか

旱魃を僵屍と結ぶ話は、清の本にいくつも出てきます。

  • 『續子不語』巻三「旱魃有三種」は、旱魃には獣に似たものと僵屍が変わったものがあり、どちらも日照りを起こす、と書きます39。
  • 『子不語』巻十八「旱魃」は、「或曰」として、獣の形の「獣魃」と、首をくくって死んだ者の屍が僵となった「鬼魃」がある、捕えて焼けば雨を招ける、という説を記します40。上の表の、白い毛の女の僵屍を焼くと翌日に大雨が降った話は、この条の終わりにあります14。
  • 『淞隱漫錄』の一話では、女主人公が緑の毛の僵屍を旱魃のしわざだと言って焼かせると、雨が降ります19。『醉茶誌怪』でも、術者が塚の僵屍が旱魃になったと言い、焼くとまもなく大雨になります20。

一方で、紀昀の『閱微草堂筆記』は慎重です。

  • 巻七で紀昀は、旱魃の害は古く『詩經』に見え、『山海經』の女魃は詩の語からのこじつけらしい、と述べます。そのうえで、近ごろ言う旱魃はみな僵屍で、掘って焼くと雨がよく降るとされる、という世の説を記します6。けれども続けて、一つの僵屍の気が天地をふさいで雨を妨げ、龍を追い払えるものだろうか、と疑いを書き添えます7。
  • 巻十では、祟る僵屍には死んだばかりの屍と、長く葬られても腐らない屍の二種がある、と述べ41、「或曰」として旱魃はこれだという説を挙げつつ、詳しくは分からない、としています42。

馮論文も、旱魃は日照りを起こすと伝えられる鬼で、古い本に早くから記録がある、として『詩經』大雅「雲漢」、『山海經』の黄帝の娘の魃、『説文』の「魃は旱の鬼」を挙げます43。

気の違いで分ける(小説の台詞)

章回小説(回を重ねて続く長い小説)『野叟曝言』の第四十九回では、主人公の素臣が、屍を、受ける気の違いによって分ける考えを語ります。地の陽の気を得た屍は「蛻」、陰の気は「凝」、死の気は「僵」、荒々しい気は「厲」になり、それらは僵屍や旱魃の類だ、というのです44。ただし、これは小説の中の人物の台詞です。

四つの道筋を並べると

道筋 資料 書き方
僵屍 → 飛ぶ僵屍 → 飛天夜叉 『續子不語』巻五「飛僵」222 説明の地の文
伏屍 → 游屍 → 飛行夜叉 『續子不語』巻五「骷髏三種」3 説明の地の文
屍 → 旱魃 → 犼 『續子不語』巻三「犼」4 「或曰」(ある人の説)
僵屍 → 金毛吼 → 旱魃 『仕隱齋涉筆』の旱魃の条5 「又一說」(また一説)

紫僵・白僵・綠僵・毛僵は、この四つの道筋のどれにも出てきません。白凶・黒凶も同じです未解決の問い。

研究者の「十三類」

馮論文は、『子不語』と『續子不語』に出てくる僵屍を十三の類に分けています。色や毛で呼ぶ五類(紫僵、白僵〔白凶〕、綠僵、黑凶〔黑僵〕、毛僵)、五色の毛の僵、飛僵、地の中の三類(伏屍・游屍・不化骨)、旱魃の一種としての鬼魃、犼、それに「干麂子」という名の類です45。干麂子がどんな屍なのかは、今回は元の話まで確かめていません。

これは論文の書き手が二つの本から語を拾い集めて作った分け方で、原書に十三類の並びがあるわけではありません。また「黑僵」は、論文が「黑凶」に添えた語で、「秦中墓道」の本文の語は「黑凶」です45。

同じ字で、別の意味: 飛屍・伏屍・屍王

段階の語に見える字の並びが、まったく別の意味で古くから使われていることもあります。

  • 明の医学の本『普濟方』は、「五屍」という病の一つを「飛屍」と呼びます。飛ぶように速く起こるのでこう名づけ、刺すような痛みが出る、というのです46。同じ所に「伏屍」も病の名として出てきて、何年も潜んで除けないもの、とされます47。これは「骷髏三種」の、地に伏す屍の「伏屍」とは別の使い方で、二つを結ぶ記述はありません47。
  • 『潛夫論』巻六は、巫覡(祈祷をする人)が言いふらし、「小人」が恐れる七つの神の一つとして「飛屍」を挙げます。ここでの「小人」は背の低い人ではなく、古い本で君子に対して使う、物の道理をわきまえない世間の人々のことです48。
  • 香港では、題に「飛屍」を含む映画の記録が 1958 年、1959 年、1962 年、1981 年にあります49505152。1993 年には『湘西屍王』という映画があります53。けれども、どの記録も題名と作品の基本情報だけで、「飛屍」や「屍王」が作品の中で何を指すのかは分かりません5253。

字が同じだからといって、同じものとは限りません。

殭屍王・殭屍真祖: テレビドラマの言葉

ここからは、作品の中の設定です。伝承の記録ではありません。

1998 年に保存された頁の「殭屍王」

香港のテレビ局・亞洲電視(ATV)の公式サイトには、連続ドラマ『我和殭屍有個約會』のあらすじと出演者の表が載っていました。この頁は 1998 年 7 月にインターネット・アーカイブに保存されたもので、頁の末尾には 1998 年の著作権の表示があります54。

あらすじの序幕は、物語の中の 1938 年です。「殭屍王」の將臣が現れ、死にかけた國華・復生・龍一の三人の血を吸い尽くします。魔を祓う一族の馬丹娜が駆けつけて將臣を退けますが、國華と復生の二人は行方が分からなくなります55。將臣に咬まれた者は殭屍になるとされ、咬まれた國華と復生は殭屍になって生き延びます56。この作品の殭屍は、老いず死なず、血を糧に生き、特別な力を持つ存在として描かれます57。

大事なのは、この頁で「殭屍王」という語は一度しか使われず、將臣が殭屍の中でどんな位置にいるかの説明もないことです。白僵・黑僵・跳屍のような、段階や等級を示す語も頁にありません8。

今の配信サービス(Apple TV の香港版)の紹介でも、第 1 集で馬丹娜が「殭屍王」將臣の隠れ家へ向かいます58。ただし、出来事の順や場所の書き方は、1998 年の公式のあらすじと違います58。

2000 年に保存された頁の「殭屍真祖」

続編『我和殭屍有個約會Ⅱ』の公式サイトは、2000 年 5 月に保存されたものです。題に「Ⅱ」が付き、前の作品と同じ人物たちが続けて出てきます59。このあらすじでは、將臣は人でも鬼でも神でもない「殭屍真祖」とされます。物語の中には、中国の神話の女神の名を持つ女媧が出てきて、人の世を去ったとされます。將臣はこの女媧に心を寄せていて、女媧が去った後は眠りについてその帰りを待った、と書かれます9。目覚めた將臣は、人々を殭屍にすれば女媧の降臨による災いから救える、と考えています60。

1998 年の頁の「殭屍王」とは呼び方が変わっています。ここでも「真祖」が殭屍の段階や系譜の中で何を意味するかの説明はありません9。

2004 年に保存された、題の表示のない頁は、シリーズの第一作・第二作(原文は「第一・二輯」)の作風を受け継ぎ、伝統的な殭屍を新しく解釈して、人間らしさと感情を加えた、と紹介しています61。

小説の「銅甲屍」

2007 年 11 月に中国で出た小説『西双版纳铜甲尸』(肥丁 著)は、題に「铜甲尸」(銅甲屍)を使います10。書籍データベースの内容紹介によれば、元の末を舞台に、茅山の道士が铜甲尸の襲来を知って弟子たちと防ぐ物語です。また、铜甲尸には作り出す方法があり、それが世に広まった、とされます62。この紹介では、铜甲尸は年月で段階を上るものではなく、術で作られるものです。

「銅甲屍」の、これより古い使用例はまだ見つかっていません。香港政府の映画のデータベースで題名に「銅甲」を含む作品を探しても、ウィキソースの全文から「銅甲屍」を探しても、見つかりませんでした。ただ、これは映画の題名と、ウィキソースに入っている本の範囲で探した結果です。映画の中の台詞や、ほかの本にこの語が無かったとまでは言えません未解決の問い。

年を経た殭屍: 『蜀山劍俠新傳』

ウィキソースには、還珠樓主の作と表示された小説『蜀山劍俠新傳』が収められています。刊行の年は頁に書かれていません63。

  • 第 6 回では、山の荒れ寺に「積年殭屍」(年を経た殭屍)が現れます。背丈は一丈ほど、碧い瞳に外へ出た牙、全身に寸ほどの緑の毛が針のように逆立っています6364。
  • 体は鉄のように硬く、目のほかは矢が通りませんが、体がこわばっていて高くは跳べない、と主人公は見ます65。
  • この殭屍は、空を飛んできた全身黄色い毛の怪物に、爪のひと振りで倒され、両足をつかまれて二つに裂かれます66。

この小説の全文には、「殭屍」の語が 21 回出てきますが、旱魃・犼・飛屍・屍王・銅甲・金甲・跳屍・白僵・黑僵・飛僵・不化骨は、一度も出てきません67。「年を経た殭屍は緑の毛で硬い」という描き方はあっても、等級の語はありません。

読むときの注意

  • 並んでいることと、順があることを分ける。紫僵・白僵・綠僵・毛僵は『子不語』に並んでいますが、順も強さも書かれていません1。この並びを「等級」と受け取るのは、本文に書かれていない読み方です。
  • 「或曰」を落とさない。屍 → 旱魃 → 犼の順は、原書では「ある人の説」ですが4、研究の地の文では伝聞の形が落ちています34。引用の引用(孫引き)を重ねると、伝聞は言い切りに変わりやすくなります。
  • 同じ字でも、別の意味がある。「飛屍」「伏屍」は、医学の本では病の名です4647。字の並びが見つかっただけでは、屍の段階の話とは言えません。
  • 作品の設定を、伝承の証拠にしない。「殭屍王」「殭屍真祖」は、テレビドラマの中で一人の人物を呼ぶ語です89。咬まれると殭屍になる、血を糧に生きる、といった性質も、その作品の設定です5657。
  • 頁が保存された年と、作られた年を分ける。1998 年の公式サイトの頁は、1998 年 7 月に保存されたもので、いつ作られたかは分かりません55。1938 年は物語の中の年です。

研究所による整理・解釈

研究所の整理

この節は、上の記述をもとにした研究所の読みです。資料の記述そのものではありません。

  • 古い話にあるのは、一本の梯子ではなく、短い道筋がいくつか。清の本には、年を経た屍が別のものに変わる、という考えが確かにあります。けれども、その道筋は少なくとも四つあり、互いにつながらず、旱魃と犼(吼)の順は本によって逆です。飛天夜叉も、ある本では飛ぶ僵屍の先の姿、別の本では旱魃の別名です。一本の等級にまとめられるほど、そろってはいません。
  • 色の名は、段階の材料に使われた可能性がある。紫僵・白僵・綠僵・毛僵は、古い本では順のない呼び分けです。これらが一列の等級の下の段に置かれているとすれば、並べたのは後の誰かで、原書ではありません。ただし、誰がいつ並べたかは、今回は分かっていません。
  • 等級の上の段とされる名は、今回見つかった範囲では新しい作品で使われている。「殭屍王」「殭屍真祖」は、今回の範囲では 1998〜2000 年のテレビドラマが一人の人物を呼んだ語で、等級の語としては使われていません。「銅甲屍」は 2007 年の小説の題です。どの名も、それより前の使用例や、これらを一つの等級表にまとめた資料は、今回は見つかっていません。古い本の語と新しい作品の語が、どこかで一つの表に組み合わされたのではないか、と研究所は見ています。次は、その組み合わせが最初に現れる資料を探します。
  • 研究の整理も、並びを整えて見せることがある。馮論文の十三類は、二つの本の語を拾い集めた便利な一覧ですが、原書の並びではありません。「黑僵」のように原書にない語も添えられ、「或曰」も落ちています。一覧を読むときは、元の話に戻って、誰の言葉か、順が本当にあるかを確かめる必要があります。

確かな範囲と、まだ分からないこと

確かめたこと: 上の記述は、注に示した原文の該当箇所と照らして確かめました。ウィキソース(維基文庫)の古典は、翻刻(原文の文字を写し取ったもの)で字を確かめましたが、刊本の影印(写真版)とは照らしていません。古典については、ウィキソースに入っている本の、該当する条だけを読んでいます。巻全体を読んだわけではありません。

まだ分からないこと

  • 白僵・黑僵・跳屍・飛屍・不化骨のように段階を一列に並べる体系は、どの資料が最初に示したのか未解決の問い
  • 「銅甲屍」「金甲屍」「黑僵」「跳屍」「屍王」などの語は、どの資料に初めて現れるのか未解決の問い。「銅甲屍」は 2007 年の小説より前にあるのか未解決の問い
  • 等級の並びの成り立ちを論じた研究・評論はあるのか。今回は行き着きませんでした未解決の問い
  • 屍・旱魃・犼(吼)の順は、ほかの清や民国の資料ではどう書かれているのか未解決の問い。『仕隱齋涉筆』が紹介する「魃は飛天夜叉」という小説は何か未解決の問い
  • 『我和殭屍有個約會』の放送された映像では、將臣のほかに段階や等級を表す語が使われるのか未解決の問い
  • 1950〜80 年代の香港映画の「飛屍」は、どんな意味で使われているのか未解決の問い
  • 「骷髏三種」の不化骨の色は、刊本(印刷された本)では「黒い玉」と「黒い石」のどちらなのか未解決の問い

次に読む: キョンシーとは何か――文献と映画から読み直す/『子不語』の「僵屍求食」を読む

出典

  • 袁枚『子不語』巻二「秦中墓道」、巻八「批僵屍頰」、巻九「掘塚奇報」、巻十「綠毛怪」、巻十二「飛僵」、巻十八「旱魃」、巻二十二「僵屍抱韋馱」。維基文庫の翻刻
  • 袁枚『續子不語』巻二「僵屍食人血」、巻三「犼」「旱魃有三種」、巻五「飛僵」「骷髏三種」「屍奔」。維基文庫の翻刻
  • 紀昀『閱微草堂筆記』巻七、巻十。維基文庫の翻刻
  • 徐珂『清稗類鈔』迷信類二「袁子才論殭尸」。維基文庫の翻刻
  • 『仕隱齋涉筆』3「旱魃」、『淞隱漫錄』53「劍仙聶碧雲」、『醉茶誌怪』2「旱魃」、『野叟曝言』第四十九回。維基文庫の翻刻
  • 朱橚『普濟方』(四庫全書本)巻二百三十八、『潛夫論』巻六。維基文庫の翻刻
  • 還珠樓主『蜀山劍俠新傳』。維基文庫の翻刻
  • 馮藝超「《子不語》正、續二書中僵屍故事初探」『東華漢學』第 6 期(2007 年)
  • 萌典(教育部《重編國語辭典修訂本》データ)「旱魃」「魃」「犼」
  • 亞洲電視 公式サイト『我和殭屍有個約會』故事大綱(1998 年保存)、『我和殭屍有個約會Ⅱ』故事大綱(2000 年保存)、drama/04/vampire3(2004 年保存)。インターネット・アーカイブ
  • Apple TV 香港『我和殭屍有個約會』作品頁
  • 香港政府 康樂及文化事務署 Hong Kong Film Search の題名検索(飛屍・屍王ほか)
  • 香港電影資料館『風起潮湧—七十年代香港電影』(香港影人口述歷史叢書之七、2018)
  • 豆瓣读书『西双版纳铜甲尸』の書誌頁

注(出典と、原文の該当箇所)

各注の頭の色の付いた印は、その記述が「資料の記述」「作品内の設定」「研究所の整理」のどれにあたるかを示します。原文との照らし合わせがどこまで済んだかは、印の無い注ではどれも「人が訳と説明を確かめた段階(人による原文の照合はまだ)」です。それと違う段階の注にだけ、その段階を示す印を付けています。

  1. 資料の記述
    • 子不語 卷9 子不語 卷9「掘塚奇報」末段(「朱嘗言所見…」で始まる段)
  2. 資料の記述
  3. 資料の記述
    • 續子不語 05 續子不語 05「骷髏三種」、『岣嶁神書』の引用の直前の一文
  4. 資料の記述
  5. 資料の記述
  6. 資料の記述
  7. 資料の記述
  8. 資料の記述
  9. 作品内の設定
  10. 資料の記述
  11. 資料の記述
  12. 資料の記述
  13. 資料の記述
  14. 資料の記述
  15. 資料の記述
  16. 資料の記述
  17. 資料の記述
  18. 資料の記述
  19. 資料の記述
  20. 資料の記述
  21. 資料の記述
  22. 資料の記述
  23. 資料の記述
  24. 資料の記述
  25. 資料の記述
  26. 資料の記述
  27. 資料の記述
  28. 資料の記述
  29. 資料の記述
  30. 資料の記述
  31. 資料の記述
  32. 資料の記述
  33. 資料の記述
  34. 資料の記述
  35. 資料の記述
    • 仕隱齋涉筆 3 仕隱齋涉筆 3「旱魃」、「又小說載」で始まる文
  36. 資料の記述
  37. 資料の記述
  38. 資料の記述
  39. 資料の記述
  40. 資料の記述
    • 子不語 卷18 子不語 卷18「旱魃」、「或曰」で始まる段
  41. 資料の記述
  42. 資料の記述
  43. 資料の記述
  44. 資料の記述
  45. 資料の記述
  46. 資料の記述
  47. 資料の記述
  48. 資料の記述
  49. 資料の記述
  50. 資料の記述
  51. 資料の記述
  52. 資料の記述
  53. 資料の記述
  54. 資料の記述
  55. 作品内の設定
  56. 作品内の設定
  57. 作品内の設定
  58. 作品内の設定
  59. 資料の記述
  60. 作品内の設定
  61. 資料の記述
  62. 作品内の設定
  63. 資料の記述
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  66. 資料の記述
  67. 資料の記述