モチーフ
墨縄(墨斗)
- 墨斗
- 墨斗車
- 墨線
- 墨繩
- 繩墨
資料の記述
墨縄(墨斗)は魯班經匠家鏡に現れる。家屋の上棟儀礼(起造立木上梁式)で、匠人が使う秤と丈竿、墨斗、曲尺を紐で結んで香を焚く机の上の米桶に据え置き、あわせて「巡官羅金」と呼ばれるものも安置して凶神を打ち払うと記す
この記述の範囲: 魯班經匠家鏡 卷之一「起造立木上梁式」節
- 重訂相宅造福全書(魯班經匠家鏡)卷之一 魯班經匠家鏡 卷之一「起造立木上梁式」節
墨斗は墨倉(前部の円い斗)・線輪(後部の手回しの車)・墨線(線錐を含む)・墨簽の四つの部分から成ると、現代の解説記事は説明する
この記述の範囲: 現代の木工道具解説記事(家具木工機械刀具知識、2018年)による部分名称
- 传统木工工具墨斗造型及结构 「墨斗结构」節冒頭
- 中国传统木工工具之"设规矩、陈绳墨" 「墨斗的结构」節冒頭
墨倉は墨斗前部の円い斗状の部分で、早い時期は竹や木で作られ、前後に小さな穴があって墨線が通り、中には蚕糸・綿・海綿などの蓄墨材を入れると記す
この記述の範囲: 記事「传统木工工具墨斗造型及结构」「墨斗结构」節
- 传统木工工具墨斗造型及结构 「墨斗结构」節・墨倉の説明
線輪は手で回す車で墨線を巻き取り、墨線は墨倉の細い穴から引き出して一端を固定し、琴の弦のように持ち上げて弾いて線を打つと記す
この記述の範囲: 記事「传统木工工具墨斗造型及结构」「墨斗结构」節
- 传统木工工具墨斗造型及结构 「墨斗结构」節・線輪の説明
墨線は蚕糸または木綿の細い糸で、末端に鉄か銅で作った先の尖った「8」字形の線錘が付き、木材に刺して糸端を固定するほか下げ振り(木工は「吊線」と呼ぶ)としても使うと記す
この記述の範囲: 記事「传统木工工具墨斗造型及结构」「墨斗结构」節
- 传统木工工具墨斗造型及结构 「墨斗结构」節・墨線の説明
墨簽は竹片で作った筆状の道具で下端を箒状に加工したもので、線を弾く際に墨線を押さえて濡らすほか、短い線や印を書く筆代わりに使うと記す
この記述の範囲: 記事「传统木工工具墨斗造型及结构」「墨斗结构」節
- 传统木工工具墨斗造型及结构 「墨斗结构」節・墨簽の説明
墨斗は一般に木製で長さ六・七寸、高さ二・三寸ほどの雄鶏の形をしており、中が空洞で墨汁を入れ、尾の部分に糸を巻き付け、側面に木か針金の柄が付くという形を記す
この記述の範囲: 記事「传统木工工具墨斗造型及结构」の導入部(記事の筆者の子どもの頃の思い出の記述に続く一節)
- 传统木工工具墨斗造型及结构 冒頭段落(祖父の思い出を交える一節)
墨倉は桃・魚・龍などの形に彫られることがあり、木工の自娯であり、また腕前の誇示にもなると記す
この記述の範囲: 「墨斗造型」節(家具木工機械刀具知識、2018年)
- 传统木工工具墨斗造型及结构 「墨斗造型」節
墨斗の用途は、長い直線を打つこと(泥・石・瓦の仕事でも使う)、墨倉に墨を蓄えて墨簽と曲尺で短い線や印を付けること、竪の線を引く下げ振りとして使うことの三つがあると記す
この記述の範囲: 「墨斗功能」節(家具木工機械刀具知識、2018年)
- 传统木工工具墨斗造型及结构 「墨斗功能」節
硬い木材を刳って作り、前半分を墨倉、後ろ半分を線輪と手回しの柄にする構造だと記す
この記述の範囲: 冒頭段落(中国伝統木工工具之"设规矩、陈绳墨"、家具迷網、2016年)
- 中国传统木工工具之"设规矩、陈绳墨" 冒頭段落
「墨斗車」と呼ぶ形式は車体・木輪・蘸斗・摇把(手回しの柄)・罫引き用の物差しなどから成り、車体は頭が高く尾が低い形で周囲に文様の装飾を施し、車の底は平らで引きやすくすると記す
この記述の範囲: 「墨斗的结构」節(中国伝統木工工具之"设规矩、陈绳墨"、家具迷網、2016年)
- 中国传统木工工具之"设规矩、陈绳墨" 「墨斗的结构」節(構造図の説明文)
民間の謎語(浙江舟山地方の伝承として本記事が紹介するもの)は、墨斗を「一間の家、半分は転輪王に貸す、線を放てば天下の邪魔も阻む」のように喩え、墨斗が邪を防ぐ力を持つという言い伝えを記す
この記述の範囲: 「墨斗谜语」節(中国伝統木工工具之"设规矩、陈绳墨"、家具迷網、2016年)が紹介する舟山地方の伝承
- 中国传统木工工具之"设规矩、陈绳墨" 「墨斗谜语」節・舟山の謎語の紹介部分
民間伝承(本記事による紹介)は、墨線の先端の重り(線錘)を「班手」「替母」「班母」と呼び、魯班が年老いた母に糸を引かせる手間を省くために魚釣りの鉤を真似て考案したという言い伝えを記す
この記述の範囲: 「鲁班与"替母"」節(中国伝統木工工具之"设规矩、陈绳墨"、家具迷網、2016年)
- 中国传统木工工具之"设规矩、陈绳墨" 「鲁班与"替母"」節
本記事は、墨斗を題材にした謎語・俗謡が清代・明代の俗文学にも見られるとして、清代『蓮花閙』(下里巴人)と明代馮夢龍『山歌』の句を引用する
この記述の範囲: 「墨斗谜语」節が引用する範囲(中国伝統木工工具之"设规矩、陈绳墨"、家具迷網、2016年)
- 中国传统木工工具之"设规矩、陈绳墨" 「墨斗谜语」節・清『蓮花閙』『山歌』の引用部分
漢族・少数民族の各地に伝わる魯班伝説を整理した本論考は、円規・墨斗・鋸・鉋・ふいご・臼・碾・船・櫓などを魯班の発明とする伝説があると述べる
この記述の範囲: 「鲁班传说与中华民族共同体形成的三重逻辑」(中国社会科学网)
- 鲁班传说与中华民族共同体形成的三重逻辑 「農耕文明」節の一文(鲁班传说与中华民族共同体形成的三重逻辑)
墨縄(墨斗)は魯班經匠家鏡に現れる。巻一「論畫柱」の条は、柱に墨で線を打つ(畫柱繩墨)作業を、時刻の吉凶(「値日」の「白」を取る)に従って行うべきだと記す
この記述の範囲: 魯班經匠家鏡 卷之一「論畫柱」節
- 重訂相宅造福全書(魯班經匠家鏡)卷之一 魯班經匠家鏡 卷之一「論畫柱」節
墨縄(墨斗)は慈溪西門外の僵屍(右臺仙館筆記卷六)で使われる。僵屍が遠くへ去った隙に、木匠たちはその棺の四周に墨線を弾き、戻った僵屍は墨線の痕を見て棺に入れず、何かを探すようにうろついたと記す(外から入らせない向き)。
この記述の範囲: 『右臺仙館筆記』卷六、慈溪西門外の僵屍の話
- 右臺仙館筆記/卷06 右臺仙館筆記 卷六、維基文庫の編集用の本文で 43 行目の段落(「木工石工所用之墨線」で始まる段)の後半
墨縄(墨斗)は慈溪西門外の僵屍(右臺仙館筆記卷六)で使われる。城の上の人に気づいた僵屍が跳び上がろうとすると、木匠たちは急いで女墻に墨線を弾き、僵屍は上がれず、夜明けまで睨み合った末に地に倒れ、皆で焼いたと記す。
この記述の範囲: 『右臺仙館筆記』卷六、慈溪西門外の僵屍の話の結び
- 右臺仙館筆記/卷06 右臺仙館筆記 卷六、維基文庫の編集用の本文で 43 行目の段落(「木工石工所用之墨線」で始まる段)の結び(「俄見城上有人」以下)
俞樾は、権衡・規矩などの道具はどれも邪を払えないのに、木工・石工の墨線だけを鬼魅が恐れるのは、「邪不勝正」、つまり墨線の正しさを恐れるからだと説く。
この記述の範囲: 『右臺仙館筆記』卷六、墨線を論じる段(著者の議論)
- 右臺仙館筆記/卷06 右臺仙館筆記 卷六、維基文庫の編集用の本文で 43 行目の段落(「木工石工所用之墨線」で始まる段)の前半
俞樾は、繩(墨線)が「正」であることの根拠として、《記》、《管子·宙合篇》、東晉《古文尚書》、《淮南子·時則篇》とその高誘注の句を引く。
この記述の範囲: 『右臺仙館筆記』卷六、墨線を論じる段(俞樾による引用)
- 右臺仙館筆記/卷06 右臺仙館筆記 卷六、維基文庫の編集用の本文で 43 行目の段落(「木工石工所用之墨線」で始まる段)の前半
墨縄(墨斗)は金陵永福庵の婦の柩(右臺仙館筆記卷六)で使われる。金陵永福庵の話では、庵に置かれた妻の柩から夜ごと女が出て僧と交わり、僧が病むので、庵の道人が石工の墨繩で柩の上を縦横に弾くと、弾くたびに柩の中で裂けるような音がして、それきり出てこなくなったと記す(中から出さない向き)。
この記述の範囲: 『右臺仙館筆記』卷六、金陵永福庵の老僧長齡の話
- 右臺仙館筆記/卷06 右臺仙館筆記 卷六、維基文庫の編集用の本文で 41 行目の段落の末尾(「金陵永福庵一老僧曰長齡」以下)
墨縄(墨斗)は溧陽史仲皋言三事(里乘卷三)で使われる。ある地で昼に怪をなす厝柩について、木工某甲が尺で棺の蓋を測り、墨繩を蓋の真ん中に三度弾くと、棺の中から痛がるような声が三度し、声はだんだん弱まり、さらに斧で棺の四隅を少し削って、怪は絶えたと記す(中に封じる向き)。
この記述の範囲: 『里乘』卷三「溧陽史仲皋言三事」の三つ目の話
- 里乘/03(卷三) 里乘 卷三「溧陽史仲皋言三事」、三つ目の話(「某處有厝柩」以下)
里乘子の評は、史仲皋の言として、左官の刀、石工の錐、木工の斧・尺・繩・墨はどれも大変貴く、怪異を鎮め抑えることができると伝える。
この記述の範囲: 『里乘』卷三「溧陽史仲皋言三事」の里乘子の評(史仲皋の言の伝聞)
- 里乘/03(卷三) 里乘 卷三「溧陽史仲皋言三事」の里乘子の評
墨縄(墨斗)は魯班の祭祀(魯班公・巧聖先師)で使われる。國家文化記憶庫の「木匠祖師爺-魯班」は、台湾と福建の匠師は墨斗を魯班の発明と見なし、広間に墨斗を供えて祀る習俗があると記す。
この記述の範囲: 國家文化記憶庫「木匠祖師爺-魯班」(顏君穎撰、李乾朗 2003 に依る)
- 木匠祖師爺-魯班 「木匠祖師爺-魯班」本文 第 3 段
國家文化記憶庫の「三義木雕工具之魯班五寶02墨斗」は、墨斗が香港の殭屍シリーズ映画の影響で「避邪」の印象を帯びるようになったと記す。
この記述の範囲: 國家文化記憶庫「三義木雕工具之魯班五寶02墨斗」の説明文
- 三義木雕工具之魯班五寶02墨斗 「三義木雕工具之魯班五寶02墨斗」本文 第 2 段の第 1 文
錢泳『履園叢話』卷十四「墨線」は、嘉慶十年三月初五日、四川の中壩で街路に墨線を弾いた痕が現れ、成都・龍安・嘉定でも同じ日に現れたと居合わせた「家小癡」の見聞として記し、その後の立夏から疫病が大いに流行したと続ける。
この記述の範囲: 『履園叢話』叢話十四・祥異「墨線」
- 履園叢話/14(叢話十四・祥異) 履園叢話 叢話十四・祥異、見出し「墨線」
徐珂『清稗類鈔』迷信類「行疫使者」は、嘉慶乙丑に毛小癡が中壩の巡司署に客となっていたとき、市中に墨線を弾いた痕が現れ、成都・龍安・嘉定も同日であったと記し、その後の疫病と「行疫使者」の夢の話を続ける。
この記述の範囲: 『清稗類鈔』迷信類「行疫使者」
- 清稗類鈔(迷信類二) 清稗類鈔 迷信類、見出し「行疫使者」
里乘には、墨縄(墨斗)についての記述がある。
この記述の範囲: 『里乘』卷三「溧陽史仲皋言三事」の三つ目の話と評(維基文庫の翻刻)
- 里乘/03(卷三) 里乘 卷三「溧陽史仲皋言三事」、三つ目の話(「某處有厝柩」以下)と里乘子の評
作品内の設定
墨縄(墨斗)は殭屍先生(霊幻道士)に現れる。香港電影資料館の繁体字版解説は、墨斗線を本作における殭屍への対処法の一つとして名指す。
この記述の範囲: 殭屍先生(Mr. Vampire, 1985)
- 殭屍先生(靈幻經典・2026年上映プログラム解説、繁体字版) 解説文3文目
- 殭屍先生(「星級影談──劉偉強」2026年上映プログラム解説、繁体字版) 解説文第 3 段落の第 2 文
まだ分からないこと
- 墨斗の形・寸法・色を記す明清以前の道教関連文献は他に無いか?
- 『天工開物』は墨斗の形・寸法を記しているか?
- 『蓮花閙』(下里巴人)・馮夢龍『山歌』の墨斗を詠んだ句は原典でどう書かれているか?
- 棟上げの儀礼(上梁儀礼)以外でも、墨斗が辟邪・鎮煞の道具として使われると記した、査読済みの研究・民族誌はあるか?
- 清代以前(明代含む)の文献に、墨斗の形・寸法・色を直接記す一次資料はほかにあるか?
- 墨斗の線で屍・僵屍を封じるという記述は、映画より前の文献に見当たらないが、湘西趕屍の民具解説以外の一次資料にはあるか?
- 墨線・墨繩で棺や死者を封じる話は、『右臺仙館筆記』『里乘』(ともに清末)より前の筆記にあるか?
- 墨斗の「避邪」の印象を香港の殭屍映画の影響とする説明は、どの資料に基づくのか?